Column
2026.05.15原価管理
工場の電気代は、どの案件のコストか——製造経費の配賦を「簡便法」で始める
材料費は伝票がある。労務費は工数から計算できる。では、工場の家賃や電気代は、どの案件のコストなのか?
この「案件に直接ひも付かない費用」=**製造経費(製造間接費)**の扱いが、案件別原価計算で最初につまずくポイントです。教科書には精緻な配賦方法が載っていますが、中小製造業の実務でそのまま回ることはまずありません。この記事では、現実的に続けられるやり方に絞って書きます。
配賦しないと何が起きるか
「面倒だから材料費と労務費だけで案件の損益を見る」——これは危険です。製造経費は、中小製造業では売上の1〜2割前後を占めることが珍しくありません。これを無視した「利益」で値決めをすると、案件は黒字に見えるのに、会社は赤字という事態が起きます。
家賃も電気代も、機械の修理代も、結局はどこかの案件の売上から回収するしかないお金です。配賦とは「その回収を、どの案件にいくらずつ背負ってもらうか」を決める作業だと考えると、実務的な意味がつかめます。
簡便法:月の経費合計を「工数の比率」で割り振る
おすすめは、次の簡便法です。
- 月ごとに、製造経費の合計額を集計する(家賃・水道光熱・消耗品・修繕費など。勘定科目ごとに月1回の入力で足ります)
- 同じ月の、案件ごとの工数を集計する(案件別原価計算をしていれば、既にあるはずです)
- 経費合計を、工数の比率で各案件に割り振る
例:7月の製造経費が100万円、7月の総工数が100人日で、A案件に30人日使ったなら、A案件が背負う経費は30万円です。
この配賦計算が組み込み済みのExcelテンプレートを用意しました。
月の経費と案件ごとの工数を入れるだけで、配賦単価と案件別の負担額が自動計算されます(無料・登録不要)。
なぜ「工数比」なのか
配賦の基準には、工数のほかに機械稼働時間・直接材料費・売上高などもあります。その中で工数比を勧める理由は3つです。
- 既にデータがある——案件別原価計算をしていれば、工数は記録済み。新しい記録が増えない
- 実感に合う——人が長く張り付いた案件ほど、場所も光熱費も消耗品も使っている、という感覚は現場に受け入れられやすい
- 説明できる——「なぜこの案件にこの経費なのか」を一言で説明できる基準は、社内の納得を得やすい
もちろん、大型の機械が電力の大半を使う工場なら機械稼働時間のほうが実態に合う、といったケースはあります。ただ、基準の精緻さを追う前に、まず全案件に配賦が乗っている状態を作る——これが優先です。
よくある質問
Q. 事務所の家賃や役員報酬も配賦するのか? 製造にかかる経費(工場側)と、販売・管理の経費(事務所側)は分けるのが基本です。まずは工場側だけで始めて構いません。
Q. 月の途中で終わった案件はどうする? その月に使った工数の分だけ配賦が乗ります。案件をまたぐ月は、月ごとに配賦すれば自然に按分されます。
Q. 配賦を入れたら赤字になった案件がある。見なかったことにしたい。 その案件こそ、配賦を入れた甲斐があった案件です。値決めか、かけた工数か、どちらかに改善余地があります。
手計算がつらくなったら
この簡便法はExcelで運用できます。ただ、毎月「経費集計→工数集計→比率計算→各案件へ転記」を手作業でやると、月に数時間かかり、担当者が変わると止まりがちです。
私たちが開発した原価管理システム「Cosmil」では、月ごとの経費金額を入力するだけで、この記事の工数比配賦が自動で回ります。案件別の利益には配賦後の数字が反映されるので、「配賦を入れたら実は赤字」も隠れません。
配賦は、原価計算の中でいちばん「後回しにされがちで、いちばん効く」部分です。簡便法でいいので、今月分から乗せてみてください。
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