Column
2026.05.01原価管理
どんぶり勘定を卒業する——中小製造業のための「案件別原価計算」はじめの一歩
「決算は黒字だった。でも、どの仕事で儲かったのかと聞かれると、正直わからない」——中小製造業の経営者から、よく聞く言葉です。
会社全体の数字は、税理士がまとめてくれます。しかし案件ごと(ロットごと)の利益は、自分たちで計算しない限り、誰も教えてくれません。そしてこの「案件別の利益」が見えていない状態——いわゆる、どんぶり勘定——には、はっきりした実害があります。
どんぶり勘定の実害は「値決め」に出る
全体で黒字なら問題ない、と思われるかもしれません。しかし全体の黒字は、儲かっている案件が、赤字案件の損を埋めている状態かもしれません。
案件別の利益が見えないと、次のことが起きます。
- 赤字の仕事を、良い仕事だと思って受け続ける(音頭を取った営業も現場も、誰も気づかない)
- 値上げ交渉の根拠が出せない(「材料が上がったので」以上の説明ができない)
- 見積もりの精度が上がらない(前回いくらかかったかが分からないので、今回も勘で見積もる)
つまり、どんぶり勘定の実害は帳簿の問題ではなく、値決めと受注判断の問題として現れます。値決めは経営そのものです。
原価の3要素と、中小製造業がつまずく場所
案件の原価は、大きく3つに分かれます。
| 要素 | 中身 | 集計の難しさ |
|---|---|---|
| 材料費 | その案件のために買った材料・部品 | 比較的やさしい(伝票がある) |
| 労務費 | その案件に使った作業時間×単価 | 中くらい(工数の記録が要る) |
| 製造経費 | 家賃・水道光熱・消耗品など | 難しい(案件に直接ひも付かない) |
多くの会社が最初につまずくのは3つ目、製造経費の配賦(=案件への振り分け)です。「工場の電気代を、A案件とB案件にどう分けるのか」という問題で、正確にやろうとすると計算が複雑になり、結局続かなくなります。
はじめの一歩:完璧を目指さず、3つだけ記録する
最初から精密な原価計算を目指すと、確実に挫折します。おすすめは、案件ごとに次の3つだけを記録することです。
- 受注金額(決まっているはず)
- 材料費(買った伝票を案件にひも付けるだけ)
- 工数(誰が・その案件に・何日使ったか。1日単位の粗さでよい)
労務費は「工数×1人あたりの日額」で計算できます。日額は、直近の給与総額から逆算した概算で構いません。
そして難物の製造経費は、月の経費合計を、各案件の工数の比率で割り振る簡便法で十分です。厳密ではありませんが、「何も分からない」と「だいたい分かる」の差は、経営判断において決定的です。
ここまでやると、案件ごとに受注金額 −(材料費+労務費+配賦経費)=利益が出ます。利益率順に並べたとき、たいていの会社で「思っていたのと違う」順位が現れます。それが、どんぶり勘定卒業の瞬間です。
この記事の手順を、そのまま使えるExcelテンプレートにしました。
日額単価と月の経費を入れるだけで、労務費・配賦経費・案件別の利益率まで自動計算されます(無料・登録不要)。
続けるコツは「現場が入力を続けられる粒度」
案件別原価計算が定着しない原因は、ほぼ一つです。記録が細かすぎて、現場が続けられない。
- 工数は分単位でなく、日単位(または半日単位)でいい
- 材料の品目分類は、最初は大分類だけでいい
- 完璧な数字より、全案件が揃っている粗い数字の方が価値がある
そして月に一度、利益率の低い案件を眺めて「なぜか」を話し合う。この習慣ができれば、原価計算は帳簿仕事ではなく、経営の道具になります。
Excelの限界と、仕組み化の目安
この仕組みはExcelでも始められますし、まずはExcelで始めるべきだと私たちは考えています。ただし、次のサインが出たら仕組み化(システム化)を検討するタイミングです。
- 集計表が属人化して、作った本人しか触れない
- 転記・集計に月数時間以上かかっている
- 過去案件との比較や、見積もりと実績の差の分析まで手が回らない
私たちWhitebellは、この「Excelの次」のために、中小製造業向けの原価管理システム「Cosmil」を自社開発しました。案件名・受注金額・材料費・工数を入力するだけで、この記事に書いた計算——労務費の算出も、製造経費の工数比配賦も——が自動で回り、案件別の利益がひと目で見えます。
とはいえ、大事なのは道具より順序です。まず案件別に記録を始めること。 どんぶり勘定の卒業は、そこから始まります。
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